頭の中のふきだまり

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ぼくのメジャースプーン 感想

辻村深月さんのぼくのメジャースプーンを読みました。小学生が主人公ですがテーマがとても重くてでも読みやすくて深い一冊でした。感想について書いていきます。ネタバレありです。

 

・ぼくのメジャースプーンというタイトル

話としては大切な人を傷つけられた主人公が、犯人に対して自分の特殊な力で復讐するという内容です。そして、その復讐の内容をどのようにするべきなのかということについて、先生とぼくが対話し続けるところがこの作品の主な部分です。メジャースプーンとは、大さじ小さじなど測りとるための器具でいわばものさしです。先生とぼくが対話を重ねて、動物や人間の命の重さはどう測れるのか、そしてその命を奪った人間の罪と罰はどう測れるのかというところがこのタイトルに込められた意味の一部かなと思います。

ハエや蚊は殺していいけど、ちょうちょは殺すのは忍びなかったり、うさぎは昔食べる文化があったりなど、命の重さをどう測るか、は人によって、そして時代によっても移りゆくものだなと思います。命の価値、罪の重さ、罰はどうあるべきかなと考えさせられる内容でした。

もう一つのメジャースプーンの意味は、ぼくとふみちゃんの絆を意味すると思います。ぼくが切実にふみちゃんを想っていることは読者は痛いほどわかるのですが、ラストでふみちゃんから見舞いにいくと言い出したことや、ふみちゃんが、ぼくに友達であることが誇りだと言われたことをとても嬉しく思っていることから、ふみちゃんもまたぼくのことを大切に想っていることが分かります。ぼくもふみちゃんも小学生離れしたキャラクターですが、幼い二人の絆もエモいポイントでした。

 

・ぼくの結論

そして、ぼくが犯人に対して課す罰の内容もまた重いものでした。ぼくの首をしめろ、そうしないと二度と医学部に戻れなくなるという内容で、人殺しをした人間は医者にはなれないし、その条件をクリアできないなら医学部にいけないという、自分の命を使って、犯人を医者には絶対させないというダブルバインドの内容でした。その覚悟の重さが凄すぎてこいつ本当に小学生かよってなりますよね。犯人が医学部に行きたいと思っていなかったら、ゲームとして成立しないのに、犯人が結局自分の地位に固執してることまで見抜いていてそれもすごいです。自分の命を使うこと、先生を騙していたことも含めてこの小学生は尋常じゃない胆力だなと思います。

ただ、自分の命を使ってしまうことは、親にもふみちゃんにも悲しい思いをさせるという点でやはり間違っているのだと思います。ぼくは自分のためといいますが、それでも誰かを想って命を投げ出せるのはすごいと思いますね。

 

・ぼくはいつ能力に目覚めたか

最後にふみちゃんはぼくに力を使われたことを覚えていたことが分かります。ということは、ぼくはふみちゃんに力を使っていないということだと思います。そうなると、先生に対して力を使ったのが初めて使ったときになりそうです。この力は力を自覚して使うという意志を持っていないと使えないみたいですね。これも、ふみちゃんのためにというぼくの想いがこもっていることなのかなと思います。

 

・愛について先生の言葉

ぼくは、自分が学校を休んだからふみちゃんが心を壊してしまったと考え、自分のせいだから、自分のために復讐すると言っていました。それに対する先生の返しがすごい好きでした。以下に本文を引用しておきます。

 

責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、「自分のため」の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです

 

自分のためと自分で思っていても、ぼくのふみちゃんへの想いは間違いなく愛だと思います。愛とは何かということについて、綺麗な側面ではなく、執着という言葉で話したところが好きですね。自分のためという気もちで結びつき相手に執着するってところがすごいしっくりきました。

 

思いの外ヘビーな内容でしたが、辻村深月さんの作品の中でもかなり好きな作品でした。