頭の中のふきだまり

考えたこと感じたことを綴るブログ

凍りのくじら 感想

辻村深月さんの凍りのくじらを読みました。辻村深月さんの人気作はどれも面白いですね。前半あたりはそこまでかなと思ってましたが、後半はどんどん引き込まれ涙がどばどばでました。

主人公の理帆子はわりと特異なタイプの主人公で、賢くて冷めていて、周りを見下していて、それでと周りに合わせられる、少し不在という個性の持ち主でした。この作品で一番良かったところは、そんな理帆子があきら(父)にテキオー灯で照らされることで、自身を受容でき、周りへの愛を認識するところです。暖かな父の愛に照らされて、自分は自分でよくて、誰かと生きたいと願っていいとわかる瞬間が、辻村さんらしい大きな暖かさを感じるクライマックスでした。

また、母の愛を感じるシーンもとても泣けました。子供に対して、あなたは私の生涯の宝物ですという言葉は、これ以上ない言葉だと思います。一緒にいるときは衝突したりするけれど、写真集を通して、母からの愛がわかるシーンがすごく好きでした。母が素人なりに理帆子の写真を取っていたことも泣けました。自分も死ぬまでになにか子供に形として残せたらいいなあと思いましたね。

タイトルの凍りのくじらとはについて考えてみます。凍りのくじらとは、つまり、父のことなんだなと思います。流氷に迷い込んだくじらを語る父は、自らも海に身を投げ自殺したことでしょう。そのことから、流氷のなかのくじらは父の例えになっていると思います。この話は、別所あきらというキャラにより、ストーリー展開していくわけですが、その別所あきらは父の亡霊であったわけで、凍りのくじらは父であり、別所あきらを示すタイトルだなと思います。別所あきらが父の幽霊のような存在であったことは、この作品における、少し不思議な要素ですが、別所あきらが理帆子のあたまの中の幻覚であったような気もしています。でもそこらへんの幻覚であったか、幽霊であったかというところを考えるのは野暮な気がしますね。

この作品はドラえもんの道具がよく出てきて、藤子不二雄の話も出てくるので、ドラえもん藤子不二雄に知識がある人はより楽しめるんだろうなと思いました。

 

悩みは欲しがれ 感想

悩みにどう向き合うか悩んでいて、悩みを欲しがれというビジネス本を読んだので、感想というか要旨のメモを残しておきます。

 

■概要

・人は悩んだとき、自分自身に対しては認知が歪むため、一人では対処できない。だから他者に相談する必要がある。

・悩みに対して語るとき人は嘘をつけない、等身大の自分自身を見つめるきっかけになる

・相手の悩みに寄り添うこと、相手の悩みを主役にすること、相手の悩みを自分ごとにして相手以上に悩むことが重要。

・人は一人で悩むと孤独感を感じる。悩み相談のときは相手の悩みの解決を目的にしなくていい。一緒に悩むことで相手の孤独を解消することに意味がある。

 

■教訓

・人は同時多発的に悩む。悩みの関係性を書き出す悩みマップを作ることで全貌把握できる

・自信がない人は、成功の定義が狭く失敗の定義が広い。小さな成功を積み重ねることを大事にする。成功は完全にコントロールできないが成長はコントロールできる。失敗を成長に活かせれば失敗ではない。

 

■悩みに乗るときのポイント

・悩みに乗るときは相手の言葉を深掘る。成功と言ったらどういうことが成功と認識しているのかなど

・相手に対して具体例を提示しながら、認識を確認する。

・相手の立場に立って自分ならどうするかという視点で考える

 

■相談に乗る力をトレーニングするには

・とにかく相談にのりまくる

・対話を静で振り返る

 

特に刺さったのは、自信がない人は成功の定義が狭いということです。個人的に自信が昔からなくて、仕事にも自信がなかったのですが、あまり仕事で実績とか成功体験がなかったからだと思ってました。でも思い返すと、報告で褒められることがあったりとか、成功と捉えていいことはたくさんあったと思います。小さな成功体験を積み自信をつけることでいずれ大きな成功ができればと思います。

 

ようこそ実力至上主義の教室へ 二年生編 8巻 感想

よう実2年生編8巻を読んだので感想を書きます。まさかの櫛田回でした。櫛田は嫌いなキャラだったはずなのに、ここ数巻で評価をあげてますね。ここまで印象を変えられる衣笠先生流石っすってなりました。以下ネタバレありです。

 

 

・七瀬翼の秘密

月城、ホワイトルーム側は綾小路の退学を目論んでいませんでした。七瀬は保険として綾小路を守る役割が与えられ、八神天沢は綾小路を退学させる役割が与えられていたようですね。綾小路がこの学校に入学したのも既定路線だった可能性が高く、ただ、何故退学させるフリをしたのか、その目的はまだ良くわからないです。そして、七瀬翼は能力が抜けた存在ではないものの、まだ隠された何かがあることが示唆されてましたね。

 

・グループ行動

今回のメインは修学旅行で、ずっとグループ行動でした。グループは綾小路、櫛田、鬼頭、山村、龍園、西野、渡辺、網倉でしたね。知らないキャラも多かったですが、グループ行動が長かったので、各キャラの深掘りが結構されていて今回でわりと人となりがわかった気がします。今回出てきたキャラが今後どう関わってくるかも気になります。ただ、ただでさえキャラが多いので収集つかないというか死にキャラになってくキャラが増えそうな気もします。

グループ行動の中では鬼頭と龍園の対立が多かったですが、要所で綾小路が龍園を抑えていた印象です。山村については伏線っぽい動きがあり、坂柳の命令で動いてそうでしたが、めちゃくちゃ陰キャって感じのキャラクターでした。最後には綾小路に少し心開いてそうでしたね。鬼頭、山村あたりは描写多めだったので、今後も出てくるかもですね。

 

・須藤と堀北

須藤が掘北に告白するというイベントもありました。予想通り振られるわけですが、堀北がしっかりと須藤に向き合って返事をしていたため、須藤は吹っ切れていて、二人の恋は終わった形ですね。堀北は恋をしたことがないと言っていて、初恋が誰になるのかも期待ポイントですね。今のところ綾小路フラグはないですが。

 

・落ちた櫛田

そして、櫛田は綾小路に恋に落ちたみたいですね。大丈夫と自分に言い聞かせるシーンは、それだけで恋におちたと推測できますが、カラーの絵の櫛田の表情から恋に落ちたことが分かりやすいです。トモセ先生流石ですね。自分自身のひたすら隠してきた内面を好ましいと肯定し、自分のことを守ってくれた綾小路に対して、恋に落ちるのも無理ないかもしれません。これも綾小路の計算で手駒を増やす策略だったらすごいですね。

しかし、櫛田は少し前まではクラスのガンでああり、嫌われキャラだったはずが、ここ数巻で評価を覆して、ヒロイン候補まで来たのは、衣笠先生の凄さですし、トモセ先生の絵の凄さでもあると思います。流石に、綾小路とくっつく展開にはならないと思いますが、自らの想いを自覚した櫛田が今後どう動くのかも楽しみです。

 

・石上という男

終盤、坂柳との対話で、一年の石上という男が、八神退学に関わっていたことが分かりました。かなりの実力者で、綾小路父を尊敬しているようです。今のところは綾小路と敵対する意志はないようですが、いつか敵として登場しそうですね。

 

・限界を迎えた一之瀬

今回のラストでメンタルに限界を迎えた一之瀬でしたが、またも綾小路に支えられることになりました。一之瀬はいつの間にかDになっていて、当初から成長の見られないキャラクターです。堀北はめちゃくちゃ成長してますし、龍園も一度負けたことで成長していそうです。そんな他クラスに対して、一之瀬が勝てないのも無理ないかなと思います。今回のラストは綾小路が抱きしめただけで終わりなので立ち直ったかは描写されてないですが、綾小路の計画では学年末に終わる予定と言われているのでまだ延命しそうです。

 

・綾小路の計画

そしてその綾小路の計画ですが、推測できる要素が少しずつ出てきました。軽井沢さんを捨てること、いずれ堀北の敵となること、一之瀬は3月末に戦線からドロップアウトすることが示唆されています。今のクラスを移ることは確定で、一之瀬クラスに移る可能性も高まったような気がします。星ノ宮先生にジョーカーと呼ばれていましたが、最下位になったチームにジョーカーが配られるのではという予想ですね。

綾小路の目的はAクラスになることではなく、色んな人々の成長を見ることなのではと思います。成長させて戦わせて愉悦を味わうみたいな。なので完全に心の折れた一之瀬を1から成長させるというのが3年生編なのではなんて思ってしまいますね。今のクラスはほぼ問題が解決されてるので描写することがなくなってきているというのもありますしね。

 

9巻は2学期末特別テストで、坂柳対龍園が描かれそうで、めちゃめちゃ楽しみですね。堀北クラスは一之瀬クラスと戦うので、一之瀬がどうなってるかも気になります。3月まで生き残るなら次回は一之瀬の勝ちになったりするんですかね。

 

2023年振り返り

今更ながら2023年の振り返りをしてみます。プライベートでの出来事というより、ハマってたこと、趣味とかについて書きます。

 

・ゲーム

原神を5月くらいから始めて、今までめっちゃはまってます。apexはやめてしまいましたね。また、原神の理解が進むことで、スターレイルのシステム理解も進んで、相乗効果で面白くなってます。スターレイルはかなりの期間やめてたんですけど、今はとても面白いです。ホヨバ沼にどっぷりな感じですね。さすがにゼンレスゾーンゼロはやるキャパないですが、ホヨバースは個人的には今一番アツいですね。

スマホゲームたと、ff7 ever crisisもやってました。FF7愛で続けてましたが、流石にだるすぎたというか、シンプルに原神、スターレイルと比べるとゲームとしてつまらないなって思いますね。イベントでひたすら周回させてポイント集めさせるみたいなのってもうしんどいというか、まじでただの作業なので苦痛だったなと思います。ff7のシナリオは原作やればいいですし、リメイクもありますし、ファーストソルジャーのシナリオは冗長でつまらないし、思い返すとやはりやる意味がなくなってしまったなと思います。ティファの衣装だけが唯一のモチベでしたが、それもまあいっかとなるとやる意味を失ってしまいました。ホヨバのイベントは常に新しい要素があって飽きない工夫あるなと思います。国産のキャラゲーのソシャゲはほぼすべておんなじようなシステムで目新しさなくて、面白いもの作ろうっていう熱意があんまり感じられないなあって思いますね。

原神とスターレイルについてはまた別に書きたいとおもってます。

 

・アニメ

昔はアニメたくさん見てましたが、今は年間でも3本くらいしか見てないです。見てたのは、呪術廻戦、鬼滅の刃 刀鍛冶の里編、東京リベンジャーズ 天竺編ですね。続編物しか見てないので、あらためて新しいアニメ開拓するモチベはもうないです。一応毎クール何があるか確認しますが、見たいって思えるのが続編物しかないですね。鬼滅、東リベ、呪術は今後も続編見たいなと思います。ちなみに今期は何も見てないですね。

 

・仏教

趣味というわけじゃないんですが、ここ数年仏教の勉強をしてます。ただ単純に興味本位でやってることなのですが、図書館で仏教関連の本を読むというのをちょこちょこやってますね。

仏教では悩みに対してどう対応するか参考になるところが多くて、仏教を勉強することで楽に生きることを学べるのではないかと思ってます。一口に仏教といっても色んな種類があって、教えの幅広さ、寛容さも仏教の魅力かなと思います。最近は禅にも興味出てきていて、禅に関する本読みたいなと思ってます。

 

・宇宙

昨年は宇宙兄弟を読んだ影響で宇宙にめっちゃ興味わきました。直近だとSLIMが月着陸無事にできていいニュースでしたね。他にもアルテミス計画やゲートウェイ計画、民間のispaceの計画など、月探査、着陸計画が予定されていて楽しみだなと思います。色々計画が後倒しになってますが、急ぐ必要性はないと思うので、確実性を高めてチャレンジを続けてほしいです。JAXA関連だと次は火星衛星探査と月の極域探査があったと思うので来年以降になると思いますが気長に待ちたいと思います。

宇宙探査は長いスパンでの計画になるので、楽しみが来年、再来年と続いていくのがちょっとした楽しみになっていいなと思いますね。

夜行観覧車 感想

湊かなえさんの夜行観覧車を読み終わったので感想を書きます。湊かなえさんらしく、特定の主人公をおかず視点がどんどん変わっていくシステムでした。高級住宅街で起きた殺人事件に対して、殺人事件の加害者、被害者の家族の視点と、向かいに住んでいる一家の視点で交互に描かれていきます。

遠藤家では日常的に癇癪をぶちまけまくる彩花という問題を抱えていました。この彩花の性格が終わってて、親に対しても親以外に対しても態度が酷くて、思春期だからということだけでは片付けられない性格の酷さを感じます。慎司に対してはひどい言いがかりをつけてましたし、比奈子に対しても、酷い態度でした。正直この小説の中で彩花の酷さの印象が強すぎます。親にまともに怒られたことがないのかなと思ってしまいますね。父親もあまり関わろうとせず、母親もしっかりとコミュニケーションできておらず、遠藤家の問題はコミュニケーション不足ということが要因になってるのかなと思いました。ここまで性格が酷くなくとも、家族としっかり向き合えてないところとかは自分にもあるなあと思うので、やはりちゃんと本音で話し合うということが大事なのかなと思います。

そして、一方高橋家でも一見問題なさそうに見えても、問題を抱えていました。問題があったからこそ殺人事件が起きたわけですしね。その問題は、妻淳子が慎司に対して勉強について過剰にプレッシャーをかけており慎司が限界になってしまっていたことでした。そして、その本質は淳子が前妻と張りあう気持ちを慎司に押し付けており、夫が慎司に期待していないことが分かったことが引き金となり夫を殺してしまいました。これもまた、家族間でのコミュニケーションが取れておらず、お互いの本音が理解し合えていなかったことが原因なのかなと思います。遠藤家と高橋家どちらでも殺人事件が起きていてもおかしくなかったということですね。

ラストについては、結構意外な終わり方でした。母親が父親の前妻に対する対抗心があって、慎司を諦めるようなことを言った父親にブチ切れたのが真実だと思いますが、世間に対しては父親が悪者だったという証言をしています。真実よりも、これから一緒に生きていかないといけない母親をとること、また、加害者である母親に父親を殺すべき理由があったように話すことで、自分たちの世間体を守るという意味もあったのかなと思います。

最後に、小島さと子について。遠藤家と高橋家を外から見ている野次馬的な存在ですが、かなり癖のある人物です。自分の価値観で凝り固まった感じで、子供からも疎まれてそうな印象を受けます。この作品は出てくる人物だいたいやばいやつで、それでもやばいやつの要素がわりとありがちな感じもして、それもまた嫌ミスといった気もしました。

 

スロウハイツの神様 感想

 

辻村深月さんのスロウハイツの神様を読みました。辻村作品の中でも評価が高いので期待してましたが、期待通りの良さでした。辻村さんの作品の中で一番好きなのはかがみの孤城ですが、それに匹敵するくらい好きです。最終章の伏線回収が見事で彼の想いに胸が熱くなります。明確な主人公がない群像劇のような形なので主要キャラ毎に感想を書きます。以下ネタバレありです。

 

 

 

・狩野

狩野目線で最初は物語が始まり、狩野目線の語りが多いので、主人公っぽい立ち位置です。ごく普通な人間に擬態していますが、実際はチヨダコーキより売れているダークウェルの作者でした。酷いイジメを受けていた過去があり、その闇から由来した才能によりダークウェルが産み出されたようです。ただ、つらい過去があったからこそ、本人は闇のない優しい世界を描きたいと思っており、そこが漫画家としての欠点になっているようですね。ただ、優しい世界を描く路線で環を泣かせるほどの作品を書いてはいるので、ダークウェルの作者でもありますし才能はある人なんだろうなと思います。優しい人柄ですが、スーを甘やかしすぎてるところはどうかなと思ったりします。

 

・正義

この作品で一番いいやつな気がします。みんなどこか陰をもっていますが、正義にはそれがほぼなく、気風の良さを感じます。スーに振られることになりますが、その時の対応だったり、そこから作品へと昇華できる人間力だったり、人としていいやつだなって感想です。一つケチをつけるとしたら、感情を作品に込めないというポリシーがただ恥ずかしいからという理由があんまり納得できなかったですかね。音楽含めて芸術というものは、表現の一種であり、言葉にできない感情を表現するものが芸術だと個人的には思います。

 

・スー

下巻でだいぶ評価を下げましたね。最初は優しくていい人ってイメージでしたけど、正義を振ってからも、正義に展示を手伝ってもらったりとか、五十嵐くんに固執して絵を書くことを捨てようとすることとか、だいぶイメージ悪かったです。他の人達は漫画や映画で売れてやるという情熱が描かれていましたが、スーについては絵を描く事に対して情熱が感じられず、正直一番やる気なさそうに感じてしまいました。環がスーを思って作った作品を見るまで、正気に戻れなかったので、ちょっとなあと思ってしまいます。辻村作品にはこんな感じの心の弱い女性派よく出てくるなと思います。冷たい校舎の時は止まるの辻村深月も路線は違うけど心の弱い女性でした。作者の辻村深月さんも、スーのような一面があるのかなと思ってしまいますね。

 

・エンヤ

環の親友だったけど、環の才能に嫉妬し一緒にいれなくなった人。表面では環を称賛しながら、裏では悔しさでいっぱいになってしまい限界になってしまった感じですね。漫画を書いていることを隠さずにもっとまっすぐに生きれたら違う結末だったのかもしれないですね。

 

・黒木

ここらへんから本編の重要ネタバレに触れていきます。莉々亜にまつわる鼓動チカラのプロモーションと、鼓動チカラを利用してチヨダコーキを更に売るというやり方はえげつないですよね。コーキが本気で莉々亜に恋をするとは思ってなかったでしょうが、やり方が酷いなと感じてしまいました。プロモーションが第一というスタンスは逆に言うと分かりやすくて、軸がぶれないキャラでしたね。

 

・莉々亜

ただ一人この作品で明確に悪者として描かれたキャラですね。正体はチヨダコーキをパクる鼓動チカラでした。チヨダコーキをパクるだけでなく、性的描写を露骨にすることで炎上商法的に売り出しました。また、莉々亜は、コーキに取り入ることで、レディマディの展開の書いてあるノートを盗み見て、レディマディの展開を先取りするということまでして話題性を作りました。

ただ、この全てが黒木の描いた絵図であったわけで、莉々亜自体には中身のないキャラだったと思います。莉々亜は虚言癖のある人間で、何か事件があると、関係者が身内にいるとでっちあげて関わろうとするタイプの人間でした。集団殺し合い事件の被害者が好きな人だったためコーキに復讐するために鼓動チカラをやったと言っていますが、恐らくそれも嘘であり、哀れな人だなという印象になりましたね。コーキが好きなのは私だと何度も環に言いますが、コーキの天使ちゃんは環であり、そしてそれをコーキも知っていることも踏まえると、まさに道化でしかなかったなと思います。最後まで読むとコーキが莉々亜に惹かれるわけないことは自明ですしね。環の母親と同じタイプの、嘘により自分は特別なのだと周囲にアピールしてしまう、うそにより世界に縋ろうとする姿勢が環にモロバレで痛々しかったですね。

 

・環

本作は長い話ですが、結局は環とコーキの話になります。最終章で判明することですが、環がコーキの天使ちゃんでした。環はチヨダブランドにより生きることを支えられた人間であり、コーキに憧れて、コーキのように人の心を動かす作品を作りたいと思っているのだと思います。

個人的には、好きな作品があるから生きられるというところははすごく共感できます。fateの映画三部作が制作されると聞いたときは、最後まで見るまでは死ねないなと思いましたし、ある作品がすごく楽しみで、生きる拠り所、それを楽しみにして生きるみたいなことって私だけじゃないと思いますね。

環の話に戻ると、スロウハイツでコーキと生活しているときもコーキのためを思っていて、スロウハイツのスロウはコーキの地元の方言が由来になっていますし、鼓動チカラ騒動に対しては一人で鼓動チカラの原稿を作りあげようとしていました。これらはコーキへの紛れもない愛だなと思います。また、環というキャラクターは信念がある人、強い意志のある人というイメージが強いですが、実は泣き虫という一面もあってそのギャップもいいですよね。

 

・チヨダコーキ

最終章でコーキの目線で環への想いがつらつらと語られますが、ここがこの作品の最大の盛り上がりポイントだったと思います。コーキは環がコーキの天使ちゃんであることを突き止めており、高校生時代の環をひっそりと見守っていました。ぶっちゃけストーカーなのですが、圧倒的な愛にしびれました。環の通う図書館に本を寄贈したり、環と妹のあつまる所にテレビを置いたり、ひっそりとケーキをプレゼントしたり、スロウハイツの神様であるコーキが実はここまで環を想っていたというのが良かったですよね。

そして、コーキが筆を執る意味について、それは小説家として誇りを持てたからなんだと思います。環がこれだけ自分の作品を愛していることをこっそり陰で聞くことによって、自分の仕事に誇りが持てて、仕事を再開できたのだと思います。レディマディの指輪は環をモチーフにしているところとか、環への想いがあふれる作品なんだなと思いますね。

あと、良かった思ったのはラストのおしゃれさです。最終章のコーキの独白を読んでると、これを環にも知ってほしいという気持ちにみんななると思います。最終章は独白だけで終わっていて、二人の関係どうなるの?とヤキモキしながらエピローグを読むわけですが、最後のコーキのお久しぶりですに対する環の反応から、二人の関係が進展していることが分かる終わり方でした。コーキのお久しぶりという台詞は環を見守ってましたよという意味があり、ある意味愛しているとも訳せると思います。はっきりとは書かずに環とコーキのやり取りだけでここまで描写するところがおしゃれだなーと思いますね。

 

途中まではそんなに劇的に面白いわけじゃないのですが、最後の2章ですべての伏線を回収し、暖かく終わりを迎える、辻村さんらしい素晴らしい作品でした。

ぼくのメジャースプーン 感想

辻村深月さんのぼくのメジャースプーンを読みました。小学生が主人公ですがテーマがとても重くてでも読みやすくて深い一冊でした。感想について書いていきます。ネタバレありです。

 

・ぼくのメジャースプーンというタイトル

話としては大切な人を傷つけられた主人公が、犯人に対して自分の特殊な力で復讐するという内容です。そして、その復讐の内容をどのようにするべきなのかということについて、先生とぼくが対話し続けるところがこの作品の主な部分です。メジャースプーンとは、大さじ小さじなど測りとるための器具でいわばものさしです。先生とぼくが対話を重ねて、動物や人間の命の重さはどう測れるのか、そしてその命を奪った人間の罪と罰はどう測れるのかというところがこのタイトルに込められた意味の一部かなと思います。

ハエや蚊は殺していいけど、ちょうちょは殺すのは忍びなかったり、うさぎは昔食べる文化があったりなど、命の重さをどう測るか、は人によって、そして時代によっても移りゆくものだなと思います。命の価値、罪の重さ、罰はどうあるべきかなと考えさせられる内容でした。

もう一つのメジャースプーンの意味は、ぼくとふみちゃんの絆を意味すると思います。ぼくが切実にふみちゃんを想っていることは読者は痛いほどわかるのですが、ラストでふみちゃんから見舞いにいくと言い出したことや、ふみちゃんが、ぼくに友達であることが誇りだと言われたことをとても嬉しく思っていることから、ふみちゃんもまたぼくのことを大切に想っていることが分かります。ぼくもふみちゃんも小学生離れしたキャラクターですが、幼い二人の絆もエモいポイントでした。

 

・ぼくの結論

そして、ぼくが犯人に対して課す罰の内容もまた重いものでした。ぼくの首をしめろ、そうしないと二度と医学部に戻れなくなるという内容で、人殺しをした人間は医者にはなれないし、その条件をクリアできないなら医学部にいけないという、自分の命を使って、犯人を医者には絶対させないというダブルバインドの内容でした。その覚悟の重さが凄すぎてこいつ本当に小学生かよってなりますよね。犯人が医学部に行きたいと思っていなかったら、ゲームとして成立しないのに、犯人が結局自分の地位に固執してることまで見抜いていてそれもすごいです。自分の命を使うこと、先生を騙していたことも含めてこの小学生は尋常じゃない胆力だなと思います。

ただ、自分の命を使ってしまうことは、親にもふみちゃんにも悲しい思いをさせるという点でやはり間違っているのだと思います。ぼくは自分のためといいますが、それでも誰かを想って命を投げ出せるのはすごいと思いますね。

 

・ぼくはいつ能力に目覚めたか

最後にふみちゃんはぼくに力を使われたことを覚えていたことが分かります。ということは、ぼくはふみちゃんに力を使っていないということだと思います。そうなると、先生に対して力を使ったのが初めて使ったときになりそうです。この力は力を自覚して使うという意志を持っていないと使えないみたいですね。これも、ふみちゃんのためにというぼくの想いがこもっていることなのかなと思います。

 

・愛について先生の言葉

ぼくは、自分が学校を休んだからふみちゃんが心を壊してしまったと考え、自分のせいだから、自分のために復讐すると言っていました。それに対する先生の返しがすごい好きでした。以下に本文を引用しておきます。

 

責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、「自分のため」の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです

 

自分のためと自分で思っていても、ぼくのふみちゃんへの想いは間違いなく愛だと思います。愛とは何かということについて、綺麗な側面ではなく、執着という言葉で話したところが好きですね。自分のためという気もちで結びつき相手に執着するってところがすごいしっくりきました。

 

思いの外ヘビーな内容でしたが、辻村深月さんの作品の中でもかなり好きな作品でした。