頭の中のふきだまり

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世界地図の下書き 感想

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最近は結構小説を読んでます。図書館で借りた、世界地図の下書きを読了したので感想を書きます。改めて表紙を見ると、この場面を描くために書かれた小説だよなあってじーんとなります。久々に小説で泣きましたね。アニメとかって音楽や演出で泣かせにかかることができますが、小説はそれができないので、泣かせるほどの小説はそれだけ作家としての力量がすごいなあと思います。ネタバレ有りで感想書きます。

 

○基本的に暗い話が多い

孤児院みたいな施設の5人の子供たちの話になるのですが、読んでて辛くなるような暗い話が多かったです。

過去について詳しく描写されているのは主人公の太輔だけですが、その太輔の過去もかなり辛いものです。突然両親が亡くなり、次に預けられた親戚の家では虐待されてしまうのですが、両親が生きてた時と亡くなった後のギャップがすごくて読んでてすごく辛くなりました。母親の象徴としてキルトは印象的な使われ方をしていたと感じました。

太輔以外のキャラクターもみんな辛い思いをしていました。美保子は母親に虐待されていて、淳也と麻利はいじめられていて、佐緒里は病気の弟がいて夢を諦めなければいけませんでした。

内容だけをみたら、本当に希望がある未来を持っている人は1人もいない辛い話です。みんな広い宇宙の中で1人なんだっていう表現が何度か出てきますが、みんなそれぞれ一人ぼっちで、それぞれが抱える現実が重く描かれていたように感じました。

それだけに、それでもなお希望を示したラストにとても胸が打たれましたね。

 

○希望はあると信じたくなるラスト

表紙にもなっているラストシーンはこの作品で1番大事なシーンで、このシーンを書くために作られた作品だと思います。

どんなに辛くてもこの世界のどこかに希望はあって、折れそうになりながらもそれを信じていこうとするラストはすごい良かったです。

佐緒里が言った、「いじめられたら逃げてもいい。私たちは、絶対にまた、私たちみたいな人に出会える。逃げた先にも同じだけ希望がある」という言葉がすごい心に残っていて、この作品で作者が伝えたいことだと思います。

ただ、そう言っている佐緒里もそのあと泣き出しながら、ほんとにそんな人に出会えるだろうかと不安になっているところがすごい良くて、

辛い状況にいる人に単純に逃げればいいじゃんって言っている小説ではなくて、辛いし不安だしほんとに希望がこの先あるかわからない、それでもどこかに自分の場所があるって信じたいっていう願望みたいなものをすごい感じました。

個人的にもこのテーマにはすごい共感していて、辛くてどうしようもなくなった時に、逃げるという道を持っておくことはすごい大切なことだと思います。人生自分の力だけではどうにもならないことがとても多いですが、決して自分が今いる場所だけが世界の全てではなくて、環境を変えることしか解決策がないこともあると思います。そういう状況になった時に、自分を追い込んで何も見えなくなりがちだと思うんですが、落ち着いて視野を広げられたらいいですね。そんなのいじめられてる当人には、まして子供には無理だっていう人の気持ちもすごくわかりますが、やっぱり希望を信じてほしいなと思います。

世界地図の下書きというタイトルは、自分の世界は自分で描ける、描いていこうよってメッセージがこもってるのかなと少し思いました。

 

○作品の特徴について

もうほぼ書きたいことは書いたのですが、もう少し感じたことを書きます。

作者が朝井リョウさんなのですが、この人の作品は何者とチア男子を読んだことがあって、特に何者は強烈なインパクトを感じた記憶があります。そんな浅井リョウさんなら面白いだろうと思って、今回世界地図の下書きを手に取りました。

この作品も何者と同じように、読者に訴えかけるようなテーマ性を感じました。物語を読んだはずなんですけど、物語を通して強いメッセージがあることは、何者と共通してることかと思います。

巻末の解説で、この作品の着想について触れられていたのですが、作者が自殺する子供のニュースを見て、そのような子供たちに逃げ場はあるということを伝えたかったことが、この作品の着想だったようですね。読み終わった時にはすごい納得できて、これを伝えたくて書かれたんだなと感じました。自分はテーマ性が強い作品が好きなので、そういい意味でも好きな作品です。

他にも何者との共通点として、主人公が置いてかれる終わり方をすることでしょうか。何者では、最後主人公が1番屈折した人物だとわかるのですが、この作品では主人公は1人施設に置いていかれる終わり方をします。読者が1番入り込みやすい主人公を置き去りにすることで、読者へメッセージを強く与えてたのかなって感じました。

 

すごくいい作品でした。途中まで辛い内容ですが、是非最後までたどり着いてほしい作品です。朝井さんの作品をもっと読んでみたいと思いましたね。