頭の中のふきだまり

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羊と鋼の森 感想

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久々に小説を読んだので感想を書きます。調律師の仕事小説であり成長を描く物語でもありましたが、非常に心に残る作品でした。吹奏楽をやっていた自分としては、音楽について思ってたことと重なる部分が多く、共感できる作品でしたね。

久々に文学的文章を読んだので、最初の10ページくらいは眠くなってしまいましたが、気づいたらなんだか引き込まれるような作品でした。読み終わった時になんかすごく暖かい気持ちになる作品でしたね。テーマとなるキーワードとしては、キャラクターの成長、仕事観、音楽観があると思ったので、その3つに分けて書いてみたいと思います。ネタバレは一応ありです。

 

○暖かい気持ちになる成長物語

この作品は主人公、外村の成長物語ってとこが1番大きい側面なのかなと思います。初めて調律をした時は失敗してしまう外村ですが、最終的には辛口な先輩である秋野さんにも褒めてもらえるくらい成長していて、暖かい気持ちになるラストでした。担当を変えさせられたりなど、仕事上凹むようなことが多いのですが、それでも自主的に調律の練習をしたり、音楽を聴きこんだりなど、努力を日々積み重ねていて、芯の強さを感じます。自分だったら業務時間外にそこまで努力できないですね。そういう努力を先輩もわかっていて、板取さん、柳さん、秋野さんの見守ってくれる感じがいいなあって思いました。

成長という面では、和音の成長も描かれていたと思います。最初は妹に遠慮していましたが、妹がピアノを弾けなくなったことをしっかり受け止めることで、元々あった実力を発揮できるようになりました。ピアノを食べて生きていくという言葉は非常に印象的したね。稼ぐためにピアノをやるのではなく、ピアノを弾くこと自体が生きる目的みたいなものなんだというメッセージを感じました。

外村も和音も、どんな調律師、ピアニストになりたいかというイメージをつかむことができていて良かったなあと思うと同時に、そういう目標みたいなものを自分も欲しいなあと感じましたね。サラリーマンにとってはなかなか難しいものですが。

 

○奥が深い調律師の仕事観

読んでて感じたのが、調律師の奥の深さですね。自分も長い間音楽を一応やっていて、音程が合ってるかどうかはなんとなくわかりますが、音色の部分を追求していくのはかなり奥深く難しいところだと感じました。調律師は音程を合わせるだけでなく、お客さんの欲しい音色を表現して、弾きやすい状態に持っていく必要があって、並みの努力でできる簡単な職じゃないよなあって思いましたね。ただ単に音程を合わせるだけならば、数年経てば出来るのかもしれませんが、その道で上を目指そうとすると難しいんだなと感じました。

会社勤めももしかしたら似たところがあって、どんどん昇進して偉くなってやるって人はそれ相応の努力をしているのかもしれません。まあ、偉くなりたいと調律が上手くなりたいは方向性がだいぶ違っていて、どういう人間になりたいかとそうなるためにはどういう努力をするべきなのかが大事なのかなあとふと思いました。

 

○1番心に残ったこと

この作品はピアノ、調律師を通して音楽について扱っている作品でもあると思います。個人的には主人公の音楽観に結構共感していて、読んでて1番心に残ったフレーズは、「音楽は人生を楽しむためのものだ。誰かと競うようなものじゃない。」ってとこです。

昔、吹奏楽をやっていた時、コンクールに出ることがあったのですが、音楽を競うことの意味がわからなくてずっと納得できなかったんですよね。誰の何の基準で音楽に優劣がつけられるんだよってすごい思ってました。学生が技術の向上を意図してコンクールに出るのはまあいいのかなって今は少し思うのですが。でも今でも、スポーツは誰かに勝つためにやるけど、音楽は誰かに勝つためにやるものじゃないと思うんですよね。個人的には音楽は表現の一種で、誰かに何かを伝えるためのものだと思っていたのですが、人生を楽しむためのものというのも確かだなあと感じました。この小説の中では、とても上手いとは言えない拙い演奏に対して胸をうたれる主人公が描かれていました。同じような例だと、結婚式で新郎が拙いながらピアノを弾いて聞く側が感動するみたいなこともあるかもしれません。音楽には決して技術的な上手い下手で全て判断できる訳じゃない何かがあって、そこが良いよなあって思いました。

 

久々に小説を読みましたが、当たりだった気がします。今期は見るアニメが減ってきてしまったので、もう少し色々読んでみようかなと思いました。